勝沼町・一心坊沢に伝わる
ぶどうと大蛇の物語

 ぶどうの発祥地、柏尾山から流れる一心坊沢は勝沼町鳥居平地区からの伏流水が流れる大きな沢として古くから知られている。鳥居平は千三百年前もの昔からぶどう作りが行われてきた神聖なる土地である。
 当時、一心坊沢には沢の主として大蛇が住みつき、沢のほとりにある大ケヤキの根元にあいた穴を寝ぐらにしていたそうだ。

大蛇と鳥居平の大ケヤキ

 大蛇は夜になると鳥居平のぶどう畑へ行き、ぶどうを大量に飲み込み、腹がはち切れそうになると大ケヤキの穴ぐらに戻り、木の根元にあった窪みに飲み込んだぶどうを吐き出し、何度もこれを繰り返していたそうだ。
 ぶどうづくりをしている農民たちは、ぶどうを大量に食べてしまうこの大蛇に大変困っていたそうだ。

ぶどうを吐き出す大蛇

 あまりにも被害が大きかったため、農民たちは大蛇退治へ出かけていった。すると大蛇は柏尾山の奥深くへと逃げて行ったそうだ。大蛇から吐き出されたぶどうは、自然発酵して窪みの中でぶどう酒になっていたそうだ。なんとも言えないような良い香りがただよい、人々はこの不思議な香りのぶどう酒の魅力に取り付かれたそうだ。
 この大蛇によってもたらされたぶどう酒を人々が真似て勝沼のワインの歴史が始まったそうだ。

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 千三百年の歴史を誇る大善寺には藤切会式という大祭が行われている。この行事は大蛇にみたてた藤の根を七巻半高さ六メートルの御神木に吊るし修験者が切り落とす。この祭りを「藤切り祭」と地元の人達は言っている。この藤切り祭りには大勢の若者が集まり、大蛇である藤を奪い合い小さく切り分け、持ち帰って家の神棚に祀り、今年もぶどうの収穫が豊作になりますように祈願しているのです。

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【監修 国宝大善寺 四十一世住職 井上哲秀】
大善寺の薬師如来は、葡萄を持った仏様で、日本の如来様の中では大善寺の仏様だけである。大善寺葡萄薬師伝説は、奈良時代、行基菩薩が諸国行脚の折、富士川沿いに山梨に入り、勝沼町柏尾の地に至り、谷間から山を見上げると、崖の上に大きな岩があった。岩の上にて妄想すると、右手に葡萄をもち左手に法印を結んだ薬師如来と日光、月光菩薩の三体のお姿が現れた。喜んだ行基は、桜の大木を切り倒し、薬師三尊を刻み寺を建立した。その折甲州葡萄(干葡萄)の種を薬園の中に植え、この地に伝えた。その後四〇〇年ほどの時が流れ、岩崎に住する雨宮勘解由某が、石尊祭の折り、山葡萄と異なる、葡萄の木を見つけ、持ち帰って栽培し、この地に広がったと、伝えられている。
【伝承者 萩原直仁 昭和十年二月十五日生まれ】
 萩原直仁さんは代々篤農家に生まれ現在は五代目としてぶどう栽培に勤しんでおります。大昔から一心坊沢添いにぶどう畑を所有しております。萩原さんが若きし頃、昔の年寄から一心坊沢に住む大蛇の話を聴き現在は若い人達にぶどうと大蛇の話を言い伝えているのです。

文・絵 今村英勇